[西から望むMt. Clark]
11月5日、二頭のミュールに一週間分の食料と二枚の毛布を積んだKingとCotterは、マリポサトレイルを使い渓谷の南側に上り、Bridalveil Creekの東の支流まで進み、キャンプをします。翌日はIllilouette谷に下り、モレインを辿り、午後遅くMt. Clark南側のメドウに達しました。この頃から天気が下り坂に向かい始めます。翌12日は雲が低く垂れ込め、周辺の山々を包み込み、風が強く吹き始めました。Kingは天気の回復を待つこととし、この日は周辺で鉱物調査をして過ごすこととしました。夜半9時、突然風がやみ、雪が降り始めます。夜中、毛布がどんどん重くなっていくことを感じつつも、二人は眠り続け、翌朝目が覚めたとき、やっと1フィート半もの雪が積もっているのに気付きます。もはや登山どころではなく、二人は急ぎ朝食を済ませ、引き返し始めます。雪嵐のなか、往路に描いておいた絵地図とコンパスを頼りに、マリポサトレイルにたどり着けたのは出発から8時間後でした。
[Inspiration Point付近から望む渓谷(現在のOld Inspiration Point付近)。カラーをセピア化しています]
標高も低くなり積雪量は減っていたもの、Inspiration Pointに達した時には、凍てつく雪混じりの烈風が渓谷から吹き上げており、進退窮まってしまいます。凍りついた木の下で1時間近く休んでいると、突然凪が訪れ、真っ白になったヨセミテ渓谷やハイシエラの山々が目前に出現します。このチャンスを見計らい、夕闇が迫る中、二人はトレイルを下り、心配する仲間たちの待つキャビンへたどり着くことが出来ました。夜半、一時的に星が見えたものの、早朝にかけて雷雨が通り過ぎます。降雪で渓谷から脱出できなくなることを憂えたCotter、Wilmer、Hydeの三人は、早朝にWawonaへむけ出発します。一方、King、Gardner、Clarkらは渓谷にとどまり、嵐がもたらした雪と、水と霧が作り出す、渓谷の奇観を見て過ごすことにしました。Merced川の水位は上昇し、キャビンに達するような勢いとなり、ヨセミテ滝は落ちる水で大轟音を発しはじめます。翌15日、夜半からの冷え込みと、再び始まった積雪を見て、さすがに三人も脱出を決意します。渓谷の底では7-8インチ程度の積雪でしたが、Inspiration Point付近では18インチの深さがありました。9時間後の午後4時にはWestfallのキャビン(Bridalveil Creek CGの南西)に到着しました。すぐ後には、心配したCotterがWawonaからのトレイルを戻ってきます。最悪の状況を考えたKingはCotterと共に、雪がちらつき始める中、まだ残ってる足跡を辿り、Wawonaへと向かうことにします。道に迷ったり、Cotterが疲れきって倒れるなどの困難がありましたが、深夜2時、どうにか二人はClark’s Ranchに到着します。Kingの心配は稀有に終わり、天気は翌日の昼までもち、GardnerとClarkも無事下山して来ました。
午後からは再び嵐が通り過ぎ、17日の朝までにWawona周辺に2ft.の湿った雪を降らせます。一行は重い機材は残し、必要最低限のものだけをミュールに積み、ChowchillaトレイルでMariposaに向かいます。交代で雪を掻き分けて進み、昼過ぎには峠に達します。反対側の下りには雪も序々に浅くなり、最後は豪雨の中、ところどころ鉄砲水で分断されたトレイルを進んでいくことになります。機材を積んだミュールが川に落ちておぼれそうになると言うハプニングがあったものの、二日目には天気も回復し、無事にMariposaへ着くことが出来ました。
King、Gardner、Cotterは此処でClarkと分かれ、さらに二日をかけ、ぬかるみとなったセントラルバレーを越え、無事サンフランシスコへと到着、Yosemiteの測量結果を無事Frederick Olmstedに手渡すことが出来ました。こうして、5月に始まってから足掛け半年にも及んだCalifornia Geological Surveyの1864年の活動は、幕を下ろすことになりました。彼らの作成した地図は、やがて”Map of the Yosemite Valley from Surveys made by order of the Commissioners to manage the Yosemite Valley and Mariposa Big Tree Grove by C. King and J. T. Gardner, 1865. Drawn by J.T.G”というタイトルで、1868年Whitneyの出版した『The Yosemite Book』に、ヨセミテ最初の本格的地図として添付されることになります。
『California Geological Surveyのシエラネバダ調査:1863-1864年』(完)