キーワード:ソーシャル・イノベーション、社会的企業、自然学校、環境持続性
1.研究の背景
2000年代以降、社会的問題の解決をめざす革新的な取り組みのプロセスである「ソーシャル・イノベーション =Social Innovation」が注目され、世界的潮流となりつつあり、その実践や議論が活発化してきた。その背景としては社会における問題解決主体としての行政、市民、企業の役割の変化、「社会的企業」や「社会企業家」の登場、「営利/非営利」をめぐる大きな変化が挙げられるだろう。筆者はこのような潮流と研究動向をふまえ、ソーシャル・イノベーションを「社会において発生する諸問題を見出し、自らの関心と思いに基づいた解決策として独創的な事業手法を開発し、その具体的展開を通じて人と社会との関係へ働きかけ、新しい社会的価値を創造していくこと。」(西村2009)と定義づけた。
2.環境教育とソーシャル・イノベーション
環境教育においても、これまでにはない新しい教育実践が様々な主体によって取り組まれてきた。筆者は、なかでも日本における「自然学校」の成立過程(西村2011)について着目してきた。自然学校の成立過程は「ソーシャル・イノベーション」が注目される以前の1980年代に遡り、当時は自然学校が「社会的企業」として位置づけられたり、整理されることはなかった。ところが近年、自然学校は社会問題解決と持続可能な社会の実現に向けた取り組みであるという社会的な評価と期待がなされるようになってきていることから、こうした見方と相互の関係はさらに進展していくものと考えられる。また筆者が関係した「公害地域の今を伝えるスタディツアー(2009-2011)」の企画運営や、研究指導に関わった大学院生らによる環境教育の実践研究においても、地域の問題解決のプロセスにおいて「私の置かれている現実と必然性」(西村2009)に基づいて実践のためのスキームを新たに構築し、事業組織や協働関係、活動資金調達の仕組みなどを創出してきたのである。(友延2010、内山2011、丸谷2011、堀江2011、村上2012)
3.まとめ
井上有一(2012)が指摘する、未来の社会に向けた人類全体の課題である「環境の持続可能性」、「社会的公正」、「存在の豊かさ」を実現していくことが、ソーシャル・イノベーションが拓くべき「新しい社会的価値」である点で、環境教育とソーシャル・イノベーションはまずはゴールを同じくするものであると考えられる。また今後さらに新しい事業手法をとった環境教育プロジェクトが生み出されていくことも期待できることから、環境教育とソーシャル・イノベーションの相互の関連について、さらに検証し、議論を深めていきたい。(参考文献は発表時に提示する)