現代バリにおける『内面的転換』:クリフォード・ギアツ『文化の解釈学(The Interpretation of Cultures, 1973)』を読む(7)

7.現代バリにおける『内面的転換』

第7章「現代バリにおける『内面的転換』」概要

この章では、バリ社会における「内面的転換(inner conversion)」の概念を分析し、バリ文化の変化と持続性の関係を明らかにしています。著者は、バリの宗教的・社会的実践を通じて、人々がどのように自己の内面を変容させ、それが社会全体の変化とどのように結びついているのかを論じています。

1. 「内面的転換」とは何か?

「内面的転換」= 価値観・信念・世界観の変化

• 単なる外的な制度の変化ではなく、個人の内面における変化が社会全体に影響を与える。

• バリの宗教儀礼や社会構造の変化が、人々の内面世界にどのような影響を与えているのかを考察する。

2. バリの伝統的な世界観

ヒンドゥー教的宇宙観:宇宙と社会は神々の秩序によって統制されている。

「儀礼中心の社会」:社会の安定は、宗教儀礼や伝統的な慣習の遵守によって保たれる。

「演劇的な社会」:バリの文化では、演劇や舞踊、儀式を通じて世界観が表現される。

3. 近代化と「内面的転換」

近代化・観光産業の発展 → 伝統文化の変容

インドネシア国家の統合政策 → バリ文化と国家意識の関係変化

グローバル化 → 外部の価値観との接触により、従来の世界観が揺らぐ

こうした変化の中で、バリの人々は単に伝統を維持するだけでなく、内面的に新しい価値観を取り入れつつ、バリ文化を再構築している。

4. 宗教儀礼と内面的転換

バリの宗教儀礼(オダランなど)は、社会的秩序を再確認する場であると同時に、新たな意味を与えられる場でもある。

• 例:観光産業が拡大する中で、伝統的なバリ舞踊が「宗教儀礼」から「パフォーマンス」へと変化。

• しかし、バリの人々はこれを単なる商業化とは考えず、新しい文脈の中で儀礼の意味を再構築している。

5. 「自己」と「社会」の関係

• バリ社会では、「個人の内面(自己認識)」と「社会の変化」が密接に結びついている。

儀礼や芸術の変容を通じて、人々は自らのアイデンティティを見直し、新しい価値観を取り入れていく。

• 伝統と近代化の間で、バリの人々は自らの世界観を柔軟に適応させる能力を持っている。

6. 結論

「内面的転換」は、単なる伝統の喪失ではなく、文化のダイナミックな再構築の過程である。

バリ社会では、個人の価値観の変化が、社会全体の適応と変容を促進する。

伝統文化は固定されたものではなく、社会的・経済的変化の中で新しい意味を持ちながら持続していく。

この章では、バリの文化と社会が変化の中でどのように自己を再定義しているのかを、「内面的転換」という視点から分析しています。