意味の政治学:クリフォード・ギアツ『文化の解釈学(The Interpretation of Cultures, 1973)』を読む(11)

11.意味の政治学

本章では、政治を単なる権力闘争や制度の問題としてではなく、「意味の体系(system of meaning)」として捉える視点を提示しています。クリフォード・ギアツは、政治は文化的象徴の体系の一部であり、人々が権力をどのように理解し、それにどのような意味を見出すかが、政治の実践や正統性に影響を与えると論じます。

1. 政治と意味の関係

政治は単なる制度ではなく、象徴的な意味を持つ行為でもある。

• 人々は権力を「何かの象徴」として捉え、特定の文化的文脈の中で意味を構築 する。

:王権の神聖性、国家元首のカリスマ性、選挙儀式の象徴性など。

2. 権力の正統性と文化的象徴

• 政治的権力が正当化されるのは、法や暴力による強制だけでなく、文化的象徴を通じた意味づけが重要である。

権力の正統性は、その社会の文化的枠組みの中で構築される。

事例

伝統王制:王が神の化身(例:タイの国王、江戸時代の天皇)。

民主主義国家:選挙や憲法が「国民の意思を反映するもの」として象徴化される。

革命政権:フランス革命やソビエト革命では、新たな「人民の正義」が象徴として確立される。

3. 政治儀式とパフォーマンス

政治はパフォーマンスの要素を持つ。

国家儀式や政治的イベント は、単なる形式的な手続きではなく、「国民を政治の一部と感じさせる」重要な役割を果たす。

事例

アメリカの大統領就任式:民主的な継承の象徴として機能。

ナチス・ドイツのプロパガンダ集会:国家の力を視覚的に演出し、カリスマ的支配を強化。

独裁国家の軍事パレード:統制と権威を誇示し、国民の忠誠を引き出す手段。

4. 政治的アイデンティティと物語

• 政治は、単なる政策の決定ではなく、「国民とは何か?」という物語(narrative)を作る作業でもある。

• 政治的指導者は、国民に「どのような共同体に属しているのか」というアイデンティティを提供する。

事例

アメリカの自由と民主主義の物語:「アメリカンドリーム」、「自由の国」といったナラティブが国民の統合に寄与。

ソ連の共産主義物語:「労働者の国家」、「プロレタリアートの勝利」という象徴によって社会統制を行う。

ポスト植民地国家のナショナリズム:「欧米からの独立」という物語が新国家の正統性を確立する。

5. 政治的象徴の変化と意味の闘争

社会が変化すると、政治の象徴や意味も変わる。

• 例えば、革命や政権交代は「新しい意味の体系」を生み出し、それまでの政治的象徴を否定・再解釈することが多い。

事例

ソビエト崩壊後のロシア:共産主義のシンボル(レーニン像)が取り壊され、新たなナショナリズムの象徴が生まれる。

中国の文化大革命:伝統的な文化や儒教的価値が否定され、「毛沢東思想」が新たな象徴となる。

アパルトヘイト後の南アフリカ:マンデラの「虹の国」ビジョンが、分断された国を統合する新しい意味の体系として機能。

6. 結論

政治は単なる権力闘争ではなく、文化的意味の構築プロセスでもある。

国家は象徴の管理者であり、政治的正統性は文化的コンテクストの中で形成される。

変化する社会では、象徴の意味が争われ、新しい「政治の物語」が生まれる。

この章では、政治を文化的象徴の体系として分析することの重要性を論じ、政治がどのように意味を生み出し、人々のアイデンティティを形成するかを探求しています。