14.バリにおける人間、時間、及び行動
本章では、クリフォード・ギアツがバリ社会における時間の概念と人々の行動の関係を分析し、バリの文化的価値観がどのように時間の捉え方に影響を与えているかを論じています。ギアツは、西洋的な直線的な時間概念とは異なる、バリ独自の時間観が、社会組織や行動パターンに深く関与していることを示します。
1. バリの時間概念
ギアツは、バリの時間の捉え方が西洋的な「過去→現在→未来」という直線的な時間ではなく、循環的かつ象徴的なものであると指摘します。
バリの時間の特徴
• 暦の多重性:
• バリでは異なる暦体系(ウク暦、サカ暦、宗教的暦など)が併存し、それぞれの社会的・宗教的行事が異なるリズムで組織される。
• 例えば、「ウク暦」は210日周期であり、伝統的な儀礼や農業のサイクルを規定する。
• 時間の非直線性:
• バリの時間は、単に時刻や日付を示すものではなく、出来事が起こるべき適切なタイミングを示すものとして機能する。
• そのため、「いつ」よりも「どのような文脈で行われるか」が重要視される。
• 宗教的・儀礼的時間:
• バリの宗教儀礼は、単なる時間の経過ではなく、社会秩序や宇宙のバランスを維持する役割を持つ。
• 祭りや儀礼は、歴史の進行を示すのではなく、伝統を繰り返し再確認するためのものとして機能。
2. バリの社会と時間の関係
ギアツは、バリの時間概念が社会の行動様式や人々の自己認識と深く結びついていることを示します。
(1) 役割と行動のパターン
• バリでは、時間の流れが**「役割」や「社会的地位」によって規定**される。
• 例えば、儀礼や村の行事では、それぞれの個人が**「決められた役割」を果たすことが重要**であり、即興的な行動は少ない。
• 行動は個人の意志よりも、社会的・文化的枠組みによって決定される。
(2) 即興性の排除と「形式性」の強調
• バリ社会では、予測不可能な行動や即興的な決定が避けられる傾向がある。
• 例えば、政治や経済的な決定も「適切な時期」が来るまで延期されることが多い。
• これは、すべての行動が適切なタイミングで行われるべきであるというバリの価値観を反映している。
(3) 時間と権力の関係
• 支配層は時間の制御を通じて権力を維持する。
• 例えば、儀礼や祭りのスケジュールを決定する権限を持つことは、社会的・政治的な影響力を示す。
• このため、バリでは時間の管理が単なるスケジュール調整ではなく、権力構造の一部となる。
3. バリの時間観と西洋の時間観の対比
ギアツは、バリの時間概念を西洋の時間観と比較しながら、その文化的意味を浮き彫りにします。
項目 | バリの時間観 | 西洋の時間観 |
---|---|---|
時間の流れ | 循環的・象徴的 | 直線的・進歩的 |
行動の決定 | 社会的・儀礼的枠組みによる | 個人の選択による |
時間と権力 | 時間を支配する者が権力を持つ | 経済・技術の進歩によって決定 |
重要性 | 「適切なタイミング」での行動 | 効率性と進歩 |
4. 文化的時間の解釈
ギアツは、時間の捉え方は文化ごとに異なるため、時間を単なる物理的な概念ではなく、文化の一部として理解すべきだと主張します。
• バリの時間は、単なる時計の進行ではなく、社会的・宗教的な意味を持つシンボル体系の一部である。
• そのため、時間の概念を理解することは、その社会の行動や価値観を理解するために不可欠。
• ギアツは、文化の時間観を分析することで、「時間とは単なる測定可能なものではなく、社会的に構築されたものである」ことを示そうとしています。
5. まとめ
• バリの時間概念は、循環的であり、社会的・儀礼的な意味を持つ。
• 時間の管理は、権力や社会的役割と密接に結びついている。
• 西洋の時間観(直線的で進歩的)とは異なり、バリでは「適切なタイミング」に重きが置かれる。
• 時間の概念を文化的文脈の中で理解することが、人々の行動や社会構造の解明につながる。
本章の意義
本章は、単なる「時間の概念」の研究ではなく、時間がどのように社会の秩序を形作り、人々の行動を方向づけるかを示した点に価値があります。
ギアツは、時間が文化によって異なる形で経験されることを明らかにし、それを理解することで、その社会の本質に迫ることができると論じています。