統合革命―新国家における原初的感情と市民政治:クリフォード・ギアツ『文化の解釈学(The Interpretation of Cultures, 1973)』を読む(10)

10.統合革命―新国家における原初的感情と市民政治

この章では、新興国家(独立直後の国々)が直面する**「統合革命(The Integrative Revolution)」** の問題について論じています。著者は、新国家が民族的・宗教的・部族的な原初的感情(primordial sentiments)と、市民政治(civil politics)をどのように調和させるかが、国家の安定と発展の鍵であると指摘しています。

1. 統合革命とは何か?

• 革命や独立闘争を経た国家では、多様な民族・宗教・地域グループが共存している。

• これらの社会的断層を乗り越え、国家として統合するプロセスを「統合革命」と呼ぶ。

課題:ナショナル・アイデンティティの確立、部族的・宗教的対立の管理、市民としての共通意識の醸成。

2. 原初的感情(Primordial Sentiments)の影響

定義:「生得的な帰属意識」―民族、宗教、言語、血縁、地域などに基づくアイデンティティ。

特徴

• 個人の政治的・社会的態度を強く左右する。

国家の公式イデオロギーと衝突 することが多い(例:世俗主義 vs. 宗教的忠誠)。

政治的不安定の要因 になりやすい(例:民族対立、宗派対立、地方主義)。

事例

• インド:ヒンドゥー教とイスラム教の対立、カースト問題。

• インドネシア:ジャワ人中心の統治に対する地方民族の不満。

• アフリカ諸国:植民地時代の人工的な国境により、異なる部族が一つの国家に統合されることによる紛争。

3. 市民政治(Civil Politics)とは?

定義:「国家の制度やルールに基づく政治」―民主主義、法の支配、市民権、選挙など。

• 近代国家は、個人が原初的感情よりも国家のルールや制度に忠誠を誓うことを求める

• しかし、多くの新興国家では、市民意識(civic consciousness)が未発達であり、民族や宗教が政治の中心になりやすい

4. 原初的感情と市民政治の対立

問題点

• 国家は法と制度による統治を目指すが、国民は依然として血縁や宗教を重視する。

民族・宗派ベースの政党 が生まれ、国家の統合を妨げる。

政治的腐敗や縁故主義(クライアント・パトロネージ)が横行する。

事例

• レバノン:キリスト教徒とイスラム教徒の間で政権分担制を導入したが、宗派対立が激化。

• ナイジェリア:部族間の権力争いがクーデターや内戦を引き起こした。

• ミャンマー:軍事政権が仏教徒を優遇し、少数民族との衝突が続く。

5. 統合のためのアプローチ

1. ナショナリズムの構築

• 国家が「国民」としての共通アイデンティティを育てる。

• 例:インドの「インド人意識」、インドネシアの「パンチャシラ」。

2. 制度的統合

• 民主的な憲法、法の支配、教育システムを整備し、市民意識を醸成する。

• 例:南アフリカのアパルトヘイト後の国民統合政策。

3. 経済発展による格差縮小

• 経済的不平等が民族対立を悪化させるため、公平な経済成長が統合に不可欠。

• 例:シンガポールの「民族共存型経済政策」。

4. 多文化主義と自治の導入

• 文化的多様性を認め、地域ごとの自治を強化する。

• 例:スイスのカントン(州)制度、スペインのカタルーニャ自治政府。

6. 結論

新国家の最大の課題は、原初的感情を抑圧せずに、市民政治へと昇華させること。

• 民主主義が機能するためには、ナショナリズム、市民意識、制度的統合、経済発展が不可欠。

成功例と失敗例を比較しながら、各国の統合戦略を再考することが重要である。

この章では、新国家が直面する「統合革命」の困難と、それを克服するためのアプローチを多角的に分析しています。