公害地域再生の新展開

日本ウエルネス学会第11回大会(2014.9.13-15 福岡大学)で発表する研究発表の抄録原稿です。

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公害地域再生の新展開

西村仁志(広島修道大学人間環境学部)

キーワード:公害、環境教育、地域再生

 日本では1950年から60年代にかけ、全国各地で工場や鉱山を発生源とした激甚な環境汚染と健康被害が「公害」として社会問題化した。これらは各地での長きにわたる裁判を通じて加害企業の法的責任、そして行政の監督責任が明確になるとともに、事業所から排出される汚染物質等については環境関連の法整備によって厳しく規制、監督され、公害防止技術の開発・普及とともに大きく改善したのである。こうして公害の被害地域の内外において「公害はすでに克服した」、「公害は過去のものである」という認識も一般的になっている。しかし各地には今もなお健康被害に苦しむ方々がおられ、また患者とその家族に対する差別や偏見、地域内の信頼関係の喪失など残された問題は大きい。
 このような状況のもと、『ウエルネス・ジャーナル』第9号「ウエルネスにおける社会的公正を考える」(西村 2013)において報告した「公害地域の今を伝えるスタディツアー」が契機となって、その後、公害地域再生の新展開ともいえる複数の取組みへとつながってきた。今回の発表では、以下の3つの事例について、その経過について報告する。

1.「公害地域のESD~地域情報を集める、まとめる、人へ伝える~」
 大気汚染公害の被害地である大阪市西淀川区において、公益財団法人公害地域再生センター(通称:あおぞら財団)が主催し、区内の各地域の歴史や伝統、また地域特性をテーマにした住民交流のつどい「あおぞらイコバ○○でみせ」を行ってきた。大阪湾の漁業、伝統(行事)食、モスクを中心にイスラム教徒が集まる地域など、ユニークな交流集会を開催してきている。

2.「公害資料館ネットワーク」の設立と「フォーラム」の開催
 1.と同様にあおぞら財団が企画し、本事業は環境省「平成25年度地域活性化を担う環境保全活動の協働取組推進事業」に採択された。全国の公立および民営の公害資料館の関係者に呼びかけられて2013年12月に「公害資料館連携フォーラム」が開催された。このフォーラムには13施設の資料館関係者の他、研究者や運動支援者など合計約90名がつどい、「公害資料館ネットワーク」が設立された。

3.「環境学習を通じた人材育成・まちづくりを考える協議会」
 日本でも有数の規模の石油コンビナートを有する岡山県倉敷市水島地区も大気汚染公害に苦しんだ被害地である。ここでも公益財団法人水島地域環境再生財団(通称:みずしま財団)を事務局として、公害地域再生の鍵となる人材育成・まちづくり活動をコンビナート企業、行政、地元商店街や漁協、大学関係者など多様なステークホルダーとともに取り組んでいる。