
アラン・チャドウィックの講話『Ley Crops(休閑・緑肥作物)』(1979年4月、バージニア州カーメル・イン・ザ・バレー、Stephen Crimi編『Reverence, Obedience and the Invisible in the Garden: Talks on the Biodynamic French Intensive System』に所収)の、まとめです。
本講話は、レイ・クロップ(休閑・緑肥作物)の重要性を強調し、農業における生態系的循環の回復を訴えるものでした。チャドウィック氏は、生け垣や小区画の田畑が風害防止や生物多様性の保全に寄与すること、そして草やマメ科植物が土壌を肥沃化する「与える植物」として極めて重要であることを説きました。特にヴィッチ属やサンフォワンのような緑肥植物は、貧弱な土地でも根系を発達させて土壌改良を進めます。農地の三分の一をレイ・クロップとして確保し、多様な植生を循環的に活用することが、健全な農地と生態系再生の鍵であると結論づけています。
1.レイ・クロップの概念と生け垣の生態学的意義
チャドウィックは休閑・緑肥作物を単なる休閑地の管理技術としてではなく、農地全体の生態系を保全し循環させる根幹的要素として位置づけた。彼はまず「コンセルヴァトワール(conservatoire)」の概念を示し、農地を小規模の区画に分け、生け垣や堤防で囲むことが、風害の緩和、微気候の形成、そして生物多様性の維持に資することを強調した。生け垣は家畜の侵入を防ぐ単なる物理的障壁ではなく、鳥類や小動物の生息環境を提供し、植生多様性を高める生態系のハブとして機能する。こうした小区画化は、耕作地が大規模化した近代農業の潮流に対抗し、農地の生態的健全性を高める手段である。さらに、生け垣の構成植物としてハウソーン(Crataegus)やブラックベリーなどが挙げられ、これらは土壌保全と同時に、堆肥化可能な有機資源を定期的に供給する存在である。チャドウィックは、生け垣や小規模パドックの導入によって、農業が本来持つべき「保存と再生」の機能を取り戻すことができると説いた。
2.与える植物と奪う植物:植物群の二分法と土壌肥沃化の視点
チャドウィックは植物を「与える植物(givers)」と「奪う植物(takers)」に分類し、農地管理における土壌肥沃化の視点を提示した。トウモロコシ(maize)やユーカリ(eucalyptus)、カンファー(camphora)などは土壌の栄養素や水分を奪い、土壌を劣化させる「奪う植物」に分類される。これらは成長速度が早く、商業的価値も高いが、土壌の有機物を急速に枯渇させる危険性がある。一方で、草類やマメ科植物は土壌の有機物を増やし、肥沃化に寄与する「与える植物」であり、その代表がクローバーやヴィッチ属(Vicia)である。彼は特に草が持つ生態的機能に注目し、草の根系は地下に腐植を形成し続け、地上部も常に有機物を供給する「生きたコンポスト製造機」であると評した。この二分法は単なる分類ではなく、農地の生態系的バランスを見直す指針となり、肥沃化に寄与する植物を戦略的に配置することの重要性を示唆する。
3.マメ科植物の役割と窒素固定による土壌再生
マメ科植物は根粒菌による窒素固定を行い、土壌中の窒素循環を活性化させることから、チャドウィックはこれらを「究極の土壌再生者」と位置づけた。彼は特にヴィッチ属(Vicia)、サンフォワン(Onobrychis)、アルファルファ(Medicago sativa)を例に挙げ、それらが窒素供給と有機物形成に果たす役割を詳細に解説した。サンフォワンは「聖なる干草(holy hay)」とも呼ばれ、極度に乾燥した不良土壌でも発芽・生育し、40年間にわたり安定して収穫できるほどの生命力を持つ。これらの植物は根系を深層まで伸ばし、土壌の通気性や保水性を高めるとともに、根粒菌がもたらす窒素はその後に栽培する作物にとって肥料的価値を持つ。さらに窒素固定菌は作物収穫後も8〜10年間土壌中で生き残り、長期的な肥沃化をもたらすとされる。チャドウィックは、化学肥料に依存する現代農業の在り方に対し、マメ科植物を活用した有機的・自立的な土壌再生を提唱したのである。
4.緑肥としてのレイ・クロップ活用と農地管理の再設計
チャドウィックは、農地の三分の一以上をレイ・クロップとして確保するべきだと説き、緑肥植物による土壌改良を中心とした農地管理を提唱した。レイ・クロップとは、収穫を目的とせず、緑肥植物や牧草を一定期間生育させることで土壌の有機物・養分循環を活性化させる休閑的な農地管理法である。彼は、サンフォワンやヴィッチ属などの緑肥植物を5年から15年にわたり栽培することで、表層土壌の腐植層が形成され、畑地並みの肥沃度が得られるとした。この間、植物は深層土壌の水脈や養分を引き上げ、ミミズや微生物が活発に活動する環境を整えるため、化学肥料を用いなくても農地の生産力が回復する。こうした農地管理は、近代農業が進めてきた単作・集約的生産とは対極に位置し、農地全体の長期的な健全性を優先する方法である。チャドウィックは、短期的利益にとらわれず、土地の自浄能力と肥沃化サイクルを回復させるための時間と空間を確保することが、持続可能な農業の条件であると強調した。
5.植物間関係の多様性と循環型農業の哲学
チャドウィックは、植物の社会性と相互作用が農地の生態系に及ぼす影響についても深い洞察を示した。例えば、スコフラリア属(Scrophularia)のように他種と共生することで生育が促進される植物や、ヒルスータ(Vicia hirsuta)のように他作物を絞殺する性質を持つ植物があると述べ、植物間関係の理解が農地の多様性管理に不可欠であるとした。また、トゲのあるアザミ(Carduus)やイラクサ(Urtica dioica)など、しばしば雑草として排除される植物も、大量の有機物を供給し、土壌形成に寄与する存在であると指摘した。チャドウィックは、こうした多様な植物を活かす循環型農業を「本来の農業」と位置づけ、化学肥料や除草剤に頼って「奪う植物」を排除する現代農業の姿勢を批判した。彼の哲学は、農地を単なる生産の場としてではなく、複雑で相互依存的な生態系の一部として再認識することを求めるものであり、レイ・クロップの実践はその思想の具体的な具現化であるといえる。
特定の植物の特性
講話では、マメ科植物である「Vicias」(マメ科のツル植物、ソラマメなど)のグループが特に詳しく説明されています。これらの植物の根には莫大な量のバクテリアが付着しており、「巨大な土壌形成者」とされています。このバクテリアは土壌中に広がり、8~10年間活動を続けます。ギリシャ人にとって、これらは最高の肥料と見なされていました。
Viciasの仲間として、以下の植物が挙げられています。
ラティルス (Lathyrus):「エバーラスティングピー」として知られる植物が含まれます。
ラティルス・サティヴス (Lathyrus sativus, インドエンドウ): 唯一真に有毒な種で、歴史的に大きな問題を引き起こしました。この種を食べた動物や鳥は、すぐに手足が使えなくなる症状を示し、痛みの兆候はないものの、体が二つに折れて倒れてしまいます。過去には、小麦粉やケーキに混入したため、多くの君主や教皇によって絶滅が命じられました。
• オルニソプス (Ornithopus) / セインフォイン (Sainfoin):アルファルファに似ていますが、非常に異なる性能を持ちます。「究極の与え手」であり、文字通り「何も奪わない」植物です。極めて乾燥した、砂利の多い、粘土質の、荒れた、栄養に乏しい土壌でも育つのを好みます。種子を耕した畑に蒔くと、雨が降っても暑くても確実に発芽します。慎重に収穫すれば、40年間も衰えることなく育てることができ、年間6~8回収穫でき、1エーカーあたり年間40~50トンもの草を得られます。根は20~40フィート(アルファルファは62フィート)まで伸び、土壌を耕し、灌漑を改善し、ミミズを増やし、表面に土壌堆肥を作ります。人類が破壊した土地を15年で完全に回復させる力を持つとされ、「聖なる干し草(holy hay)」と呼ばれています。最高の牛の飼料であり、最高の堆肥生産者でもあります。過去には非常に見過ごされていましたが、土壌回復に驚くべき効果があります。
キバナノカラスノエンドウ (Vicia sylvatica): 巨大な土壌形成者であり、種子は鳥にとって最高の食料、植物全体は動物にとって最高の飼料です。
ゲンゲ (Astragalus): 動物の飼料にはなりませんが、優れた堆肥作成者です。グアムトラガカンス (gum tragacanth) は、ソラマメ属の一種から採れる土壌形成剤として優れています。
アンティリス (Anthyllis): 低く育ち、大きな茂みになります。
ハス (Lotus): 「ローズ・アンド・レディース」や「レディーズスリッパ」としても知られ、低い草丈で、黄色やオレンジ色の花を咲かせます。
アルファルファ (Medicagos): ハスに似ていますが、通常一つの小さな黄色い花をつけます。
クサフジ (Vicia cracca): 宿根草で、アジアの広い地域を覆い尽くし、紫色の花を咲かせます。牛や鳥にとって極めて栄養価が高く、栄養不足で弱った家畜を瞬時に回復させます。
キタロウゲ (Orobus): 宿根草で、白に紫の縞模様が入ります。5月から6月に開花します。
レストハロー (Ononis): Viciaというよりもエンドウ豆に似ています。
メロトゥス (Melilotus): 別名スイートクローバー。
フェヌグリーク (Trigonella ornithopodioides): 一年草で、タンパク質含有量が40%と非常に高いです。
ソラマメ (Vicia faba): エジプト原産で、動物の飼料や人々の食料として重要でした。ヒポクラテスやピタゴラスはソラマメを食べないよう忠告しましたが、これは死者の魂が豆に入ると考えられていたためです。また、目を損なう影響がある一方で、カボチャの種子のような植物は視力を回復させるとも言われています。ソラマメの開花期は精神的な混乱が増加する時期と関連付けられています。根に大量のバクテリアを持ち、窒素を固定し、堆肥化を促進します。堆肥には鞘が非常に有用であり、すべての菌類に対する完全な消毒剤でもあります。
ヘアリーベッチ (Vicia hirsuta): 小さな植物ですが、小麦や穀物に入り込むと絡みついて成長を阻害します。しかし、非常に栄養価の高い堆肥として価値があり、一つの種子から千倍もの収穫が得られるほど生産性が高いです。
ヒラマメ (Herbam lens) / レンティル (Lentil): エサウが長子の権を売った煮物に使われた植物であり、四旬節(Lent)に食べられることからその名がついたとされます。
一年草のベッチ (Vicia sativa): 小さなサクランボ色の花をつける魅力的な一年草で、飼料としては比類ない価値があります。100年前までは世界の牛の9割がこの植物によって養われていたと言われています。緑の状態で刈り取れば年間5~6回再生し、土壌を消費せず常に土壌を作り続けます。あらゆる家畜、鳥、野生動物にとって最高の飼料です。
ヤブフジ (Vicia sepium): 宿根草で、一年で最も早く成長し始め、最も遅くまで枯れません(11月から12月まで)。適度な気候であれば常に緑を保ち、年間5~6回収穫できます。種子は鳥や家畜に大変好まれ、換羽期の栄養補給にも役立ちます。
雑草と病害虫対策
アザミ (Thistles): 農家にとっては厄介な雑草ですが、土壌生産や蜂蜜生産には優れています。若い芽はアスパラガスのように食べられる「素晴らしい食べ物」です。
アザミの駆除: Viciasの一種(ヘアリーベッチなど)が役立つこともありますが、コンフリー (Symphytum) がアザミ駆除に最適とされています。コンフリーはヒルガオ科の植物も2年で駆除できます。ヒルガオ科の根は6フィートも深く伸び、少しの断片からでも再生するため、非常に厄介な植物です。
イラクサ (Urtica dioica): 非常に重要な堆肥形成者であり、優れた土壌のテクスチャライザーです。3年で2000エーカーを覆い尽くすことが可能で、2回収穫すれば何十万トンもの土壌を生産でき、強力な消毒剤でもあります。
これらの植物、特にマメ科植物は、土壌の健康と肥沃度を向上させる上で重要な役割を果たすことが強調されています。商業主義的な農業とは異なり、自然の法則に従った栽培法が、持続可能で豊かな庭園を築く鍵であると示されています。