ジム・ブックホルツ他著・山本風音訳・山本幹彦監訳『インタープリターズ・ガイドブック―意味の探求を促すガイドの技術』の販売が始まりました。
事前に山本風音さん、幹彦さんからご恵贈いただいていましたので、私のほうからレビューとお勧めをさせていただきます。
この本は、クマのイラストの表紙でよく知られた『インタープリテーション入門──自然解説技術ハンドブック』(日本環境教育フォーラム監訳、小学館,1994、以下3rd Edition)の改訂版です。アメリカではその後大幅に加筆され、4th Editionが出ましたが、長年、日本語訳が待たれていました。
まずこの本は日本語への翻訳がたいへんこなれていて、読み進めやすい(理解しやすい)です。また原著と同じくレイアウトに配慮がされていてこちらも読みやすい要因だと思います。風音さん、幹彦さんがかなり時間と手間、議論を経て日本語に翻訳されたのだと思います。
以下は原著の内容に関わることですが、
1章のインタープリテーションの歴史部分は、以前の3rd Editionよりもかなり読みごたえがあります。私はこのへんに興味をそそられていて、今回の日本環境教育学会の研究大会での発表は「インタープリテーションの現代的意義」というテーマで行っています。ここでは本書には書かれていないアメリカの社会状況が、インタープリテーションの導入や発展過程、またNPSのミッションに関係しているとみています。おそらくですが、この本の5th Editionが出るとしたら、現代社会の生態的、社会的な危機を背景として、持続可能な社会に向かうという新しい役割が追記されるのではと思います。
2章ですが、監訳者の山本幹彦さんによれば、3rd Editionからの大きな違いは「意味を中心としたインタープリテーション」というアイデアが加えられていることだということで、本書では「意味とは資源に内在するものではなく、意味は一人ひとりのビジターによって作られる」のだと記されています。
本章では、サム・ハムの「囚われた/囚われていない」というアイデアが紹介されるように、3rd Edition以降の20〜30年のインタープリテーション研究の成果が、大きく反映されていると思います。本書が山田菜緒子さん訳のサム・ハム著『インタープリテーション:意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術』とほぼ同時期に日本語版となって刊行される意義はたいへん大きいと思います。(ぜひ、両方お読みになることをお勧めします)
3章に関連して、日本インタープリテーション協会主催のセミナーの「ガイドコース」(現場のガイド、インタープリターを対象)では、解説プログラムの実演とともに、「計画シート」に記入してもらっているのですが、そこでは「テーマ文」の記述項目があります。強力で魅力的なテーマ文を作文することはなかなかたいへんなのですが、この章でそれがたくさんの例文とともに解説されているのはたいへんありがたいと思います。
4〜9章は、解説技術(テクニック)とその考え方です。もちろん3rd Edition以降に大きく進化しています(以前は、映像教材はスライドプロジェクターでしたから)。ビジターを迎える様々な現場での実践に大いに役に立つことでしょう。
また本書専用のウェブサイトもあり、オンライン資料や事例の動画なども充実しています。
10章の「フィードバック」は改善のために必須で、たいへん重要な要素です。現場でこれをどのように貰うかは、常に問われてきました。たくさんの手法が紹介されているのも、ありがたいです。
以上です。観光客の受け入れ、博物館、社会教育施設、資料館や展示施設などインタープリテーションの現場やその管理業務を担って居られる方、これから学ぶ方にとっても必携本だと思います。