大学における公害教育プログラムの開発

日本ウエルネス学会第12回大会(2015.9.12-13 キープ自然学校)で発表する研究発表の抄録原稿です。

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大学における公害教育プログラムの開発

西村仁志(広島修道大学人間環境学部)

キーワード:大学、公害教育、ウエルネスな社会

1.    はじめに
日本では戦後の高度経済成長期に全国各地で工場や鉱山を発生源とした激甚な環境汚染と健康被害が「公害」として社会問題化した。各地には今もなお健康被害に苦しむ方々がおられ、また患者とその家族に対する差別や偏見、地域内の信頼関係の喪失など「ウエルネスな社会」の実現に向け、さまざまな問題の解決が求められている。

2.    大学生の公害への理解
文部科学省の「新学習指導要領(平成23年度より順次実施)」によれば、小学校において社会科5年生で「公害から国民の健康や生活環境を守ることの大切さ」、中学校では社会科(公民的分野)で「公害の防止など環境の保全」、保健体育科で「地域の実態に即して公害と健康の関係を取り扱う」、高等学校では公民科(現代社会)において「公害の防止と環境保全」、保健体育科(保健)において「人間の生活や産業活動は,自然環境を汚染し健康に影響を及ぼすこともあること,それらを防ぐための汚染の防止と改善の対策」が位置づけられている。学生たちはこれらの学習を経験してきていることから、「公害」についての一般知識レベルの理解は持っている。ところが「公害はすでに克服した」、「公害は過去のものである」という言説も一般的であり、またこうした教科を担当する教員の公害への理解も決して十分ではない。大学教育においては公害問題の全体像や構造的な把握、患者救済や地域再生における課題などを取り上げ「ウエルネスな社会」の実現に向けた議論と理解を深める必要性があると考えられる。

3.    大学における公害教育の現状
大学で公害問題を取り扱う領域は、工学、農学、保健(医学、公衆衛生学)、社会科学(社会学、法学、経営学、経済学、政策学ほか)、人文科学(教育学、哲学、歴史学ほか)など多くの分野にわたっている。つまり設置科目としても多様な学部・学科、あるいは教養教育科目等でさまざまな観点、カリキュラム上の位置づけから取り上げられている。またその教育方法も公害被災地への長期のフィールドワークから、大教室での講義科目における1トピックまで多様である。つまり対象学生(学修の分野や履修年次)と学習目標、受講人数規模などを踏まえながら、適切なプログラムデザインをしていく必要がある。

4.    本研究の課題
本研究では、発表者が勤務校にて担当する「環境問題入門」(2015年度後期開講)にて、具体的なプログラムデザインと実践を行い、検証と考察を行う。