インタープリテーションのこれから

(写真は東広島市西条の酒蔵通り)

「インタープリテーション」は、これまで自然や文化についての情報を来訪者にわかりやすく伝える技術として発展してきました。展示や解説、ガイドの語りを通じて、単なる知識伝達を超えた「気づき」や「感動」を届ける営みとして、多くの現場で実践されてきました。しかし現在、この概念は大きく転換を迎えています。それは、インタープリテーションは人と世界の関係性を問い直し、新たに結び直すための方法へと深化してきているからです。

日本インタープリテーション協会主催で2025年6月に開催した「インタープリテーション・フォーラム2025」では、こうした転換を象徴する二つの視点が提示されました。岡田真弓さん(北海道大学)によるキーノート講演「文化遺産のインタープリテーション 文化と自然を超えて」では、文化遺産を「過去の保存物」としてではなく、「今を生きる人々との関係性の中にあるもの」として捉え直すことの重要性が語られました。岡田さんは、先住民族や地域社会の語りとともに文化的景観を紐解く実践を紹介し、自然と文化、歴史はもはや分かちがたく、重なり合う関係性の中でこそ意味を持つと指摘しました。インタープリテーションは、そのような関係性に耳を澄ませ、語りを紡ぎ直す文化的実践であると示唆されました。

また、木村雄志さん(Activity Research)による特別講演「人を動かすのは『夢中』だった:インタープリテーションとフロー理論が生む高付加価値」では、心理学の「フロー理論」を応用した体験設計の視点から、インタープリテーションの新たな可能性が示されました。木村さんは、人が夢中になる体験──すなわちフロー状態に没入することで、満足度や再訪意向が飛躍的に高まることを、データとともに解説していただきました。特に、インタープリテーションのような非身体的活動(ノンフィジカル)の中でも、語りや問いかけ、参加者との対話によって深い没入が誘発され、記憶に残る高付加価値の体験が生まれることが強調されました。

こうした二つの視点は、いま全国で進められている「インタープリテーション全体計画」の背景にも重なります。個々の施設やガイド/インタープリターによる解説プログラムにとどまらず、地域全体の資源や語りを体系的に捉え直す取り組みが進む中で、専門家や観光関係者だけでなく、さまざまな生業の住民や子どもたち、そして来訪者までもが語り手となり、地域の価値を共に編み直すプロセスが求められています。ここで重視されるのは、伝えることよりも「ともに意味をつくること」、説明することよりも「夢中になれる体験を設計すること」です。

インタープリテーションは、文化と自然、制度と暮らし、記憶と感情が重なるところに立ち上がる営みです。そしてそれは、地域全体が未来に向けて紡ぎ出す物語であり、世代を越えて価値を分かち合い、人と自然がともに生きるための知恵を育む、対話と実践へと深化してきたといえるでしょう。