アラン・チャドウィック講話『Cosmic Forces』(宇宙的力)

 アラン・チャドウィックの講話『Cosmic Forces(宇宙的力)』(1979年8月2日、バージニア州カーメル・イン・ザ・バレー、Stephen Crimi編『Performance in the Garden』に所収)の、まとめです。
 この講演は、チャドウィックの思想における「霊的宇宙観」の根幹を成しており、バイオダイナミック農法の背後にある哲学的基盤を明確にする重要な内容となっています。園芸は、彼にとって「天上の秩序を地上に降ろす行為」だったのです。

1. 宇宙の力は生命活動の根源である

アラン・チャドウィックは、「宇宙的な力(cosmic forces)」こそが、地球上のすべての生命活動の根源にあると語る。太陽、月、星々といった天体の運行は、単なる物理現象ではなく、植物や土壌、さらには人間にまで影響を及ぼす見えないエネルギーを絶えず発している。たとえば、月の引力が潮の満ち引きを生み出すように、植物の液体や養分の動きにも周期的な変動をもたらしている。これら宇宙的なリズムと調和することは、農業や園芸において単なるテクニックを超えた「芸術」的行為であり、宇宙と地球、生命が一体であるという全体論的な視座を持つことが求められる。チャドウィックにとって園芸は、天と地を結びつける媒介であり、庭とは宇宙の法則を地上に映し出す鏡なのである。

2. 四大元素と宇宙のエネルギーの交差点としての庭

チャドウィックは、園芸空間を「四大元素(火・水・空気・土)」と「宇宙のエネルギー」が交差する神聖な場として捉える。彼の思想では、太陽の熱は火の力を、雨や露は水のエレメントを、風は空気の流れを、そして土は地球そのもののエネルギーを表す。これらのエネルギーは、それぞれ単独では不完全であり、相互に結び合うことで初めて「肥沃」や「生命の高揚」が生まれるとされる。園芸家の役割は、これらの要素を適切に調和させることで、植物の生命が最も美しく、健やかに発現できる環境を整えることにある。庭とは、ただの作業場ではなく、宇宙と地球が結びつく祝祭的な空間であり、そこに立つ人間は儀式の参加者なのである。

3. 自然は「静的」ではなく「動的な存在」

チャドウィックの自然観は、徹底して「動的(dynamic)」である。自然界のすべての現象は、絶え間ない変化と周期性の中にあるとされる。春分・夏至・秋分・冬至という季節の節目だけでなく、月の満ち欠けや惑星の逆行、星座の移動など、あらゆる天体の動きが植物の生理機能と密接に結びついている。植物の種まきや移植、剪定といった園芸作業も、こうした宇宙の拍動(rhythms)に従うことで、最も効果的かつ調和的になる。自然を「静止した背景」として扱う近代科学的な視点とは異なり、チャドウィックは自然を「生きている舞台」として捉える。このような動的理解によってこそ、私たちは自然との真の関係性を取り戻すことができると彼は信じていた。

4. 科学的・還元的視点への批判

チャドウィックは、現代の科学的農業が自然を分解し、数値化し、制御しようとすることに強い懸念を示す。たとえば、土壌のpHや窒素・リン・カリの含有量を計測し、それに基づいて化学肥料を投入するようなやり方は、自然を死んだ物質とみなす還元主義の典型である。これに対して彼は、土壌も植物も「生きており、感じており、宇宙と共鳴している」と考える。したがって、数値ではなく観察と感受性こそが、園芸者にとって最も重要な技術であるとされる。また、彼は「知識は経験の代用品ではない」とも述べ、教科書や実験データでは得られない、直感的・身体的な理解を重視する。自然に対する畏敬と共鳴を回復することが、現代社会が失った「魂の農業」への道だと考えていた。

5. 園芸者の役割=媒介者(Mediator)

チャドウィックにとって、園芸者とは単なる作業者ではなく、宇宙的力と地上の生命のあいだをつなぐ「媒介者(mediator)」である。これは神話的な役割であり、園芸者は見えないエネルギーを感知し、それを植物が受け取れるように土壌や空間を整える役割を担う。つまり、園芸とは「宇宙からの贈り物を地上に翻訳する行為」であり、そのためには園芸者自身が自然との霊的な関係性を築かなければならない。このような理解は、技術と精神性を分離する近代的アプローチとは対照的である。チャドウィックのいう園芸者は、アーティストであり、司祭であり、ヒーラーでもある。自然と宇宙と人間をつなぐこの「霊的職能」は、彼の園芸思想における核心的な位置を占めている。