ヨセミテ国立公園における環境教育活動

Environmental Education in Yosemite N.P.



「すべての人にとって、パンと同じように美も必要なのです。」
                        ジョン・ミューア

■国立公園における環境教育の方針
 19世紀から20世紀初頭にかけ、ヨセミテをはじめシエラネバダの山々を歩き、生活し、大自然から多くのことを学びとった「アメリカ自然保護の父」ジョン・ミューアは、活動の基本的姿勢として、「自然の美しさ、すばらしさを多くの人々に知ってもらうこと。」を旨としていた。「知らない人に自然保護を訴えてもわかってもらえない。」と。
 当時の思想家H・D・ソローやエマソンのすぐれた自然保護思想と一般庶民はまったくかけ離れたところで生活し、森林の伐採、家畜の無制限な放牧が放置されていたのである。ミューアはこのような危機的状況を新聞を通じて世に訴え、また多くの人たちをヨセミテの森に誘い、自らがインタプリター(自然解説者)となって自然の大切さを体験を通じて知らしめたのである。
 ヨセミテに限らず、アメリカの国立公園の教育、普及、啓発の姿勢の原点はここにある。「立ち入り禁止」として遠ざけるのではなく、むしろ積極的にふれあって実体験してもらい、その大切さを実感し、自然保護とNPSの良き理解者を育てることが国立公園における環境教育活動の役割である。つまり利用者の「自然とのふれあい活動」に政府として積極的に関与していく方針がみられるのである。

■充実した人的体制
 ヨセミテ国立公園の自然解説部門にはフルタイムで22名の職員がおり、プログラムが最大規模になる夏期にはシーズナルレンジャー(季節契約レンジャー)も含め100名規模にもなる。ここに後述する民間団体のインストラクター、ガイド等もいるため、日本の国立公園に比べ、人的体制はかなり充実しているといえよう。

■官・民の役割分担
 国立公園内における教育・普及活動は本来、国立公園局が担う業務であるが、ヨセミテでは後述される4つの民間団体と連携して役割分担を行っている。(インタープリテーション・マネージメントチームと称し、月1度の会合を持っている)それによって幅広く、より深いアプローチをすることが可能になっている。対象、実施時間、有料無料などを比較してみると、その役割の違いをみることができるだろう。
 
 
団体 対象 時間数 料金 備考
National Park Service 一般 数時間 無料
Yosemite Association 大人 数日間 有料 他にシアター、出版事業なども
Yosemite Institute 子供 数日間 有料
Yosemite Concession Service 宿泊者向け 数時間 無料

NPSだけでは人的、資金的、内容的にカバーしきれない部分を、これらの団体が補っているのである。また会員組織であるYAはNPSのレンジャートレーニングや、夏期のインターンシッププログラム(大学生の実習生)への資金援助も行っている。

■さまざまな情報提供
 ビジターからのあらゆる質問がやってくるのは「公園ゲート」と「ビジターセンター」である。「国立公園の顔」でもあるレンジャーのここでの対応が国立公園の印象を決めるといっても過言ではないだろう。ヨセミテでは、ここでつねに気持ちのいい対応をしてくれる。あらゆる質問と相談に適切な情報提供をしてくれる。プログラムやサイン、展示といった構成的なものよりも、こうしたヒューマンインターフェースが非常に大切にされている印象をうける。
 また大きな役割を果たしているものが、公園ゲートで配布される季刊紙「Yosemite Guide」である。レンジャープログラムのスケジュール、その他お店やミュージアムなどの開館時間、野生動物に対する注意やキャンプやハイキングへの諸注意などビジターがおよそ知りたい情報はほぼここに書かれている。これに限らず、ヨセミテの自然や歴史についての多くの出版物がある。YAがNPSと協力しながらこのような出版物の充実につとめているのである。
 紙面での情報のほか、インターネットホームページでの充実した情報提供もNPSやYAからも行われている。

■やはり原点は「大自然が教師」
 もういちどジョン・ミューアの原点にかえろう。彼がシエラの山々を放浪した当時は、ビジターセンターも、サインも、レンジャープログラムもなかった。彼はこの「ウィルダネス大学」で大自然と向き合い、自然のしくみ、生きるべき道、人間と自然のあるべき関係などを自らの力で学びとったのである。
 ヨセミテにはいまも、当時そのままの姿が私たちに残されている。ビジターセンターやサイン、レンジャープログラムなどのさまざまなシステムは、そこに安全に到達して、よりよく理解するための手助けでしかない。
大自然のなかに自分の心とからだを置いて、五感をひらいてありのままの自然と向き合うことそのものが、いちばんの環境教育なのだと私は信じている。


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